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最高裁判所第二小法廷 昭和43年(オ)356号 判決

上告人

牛造静香

ほか五名

右六名代理人

竹内岩男

被上告人

横山春一

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人竹内岩男の上告理由一および二について。

原審の確定する事実によれば、被上告人は、上告人らの先代亡牛造昌彦からその所有の本件土地を買い受けるについて、第三者占有部分の明渡について昌彦にたしかめたところ、昌彦は、右第三者の占有は権原に基づかかないもので少なくとも一年位のうちに明渡を受けて被上告人に本件土地を明け渡す旨言明したので、これを信用して、右第三者使用部分の明渡を完了すると同時に残代金を支払うことを約した、というのであるから、右事実の到来は双互に確実視されていたものであつて、右事実が到来しないことに確定した場合の法律関係についてはなんらの約定もされていないのであるから、右原審の確定した事実関係に照らせば、所論の約定が残代金の支払時期について不確定な期限を定めたものとする原審の判断は正当として肯認される。従つて、原判決には所論の違法はなく、論旨は理由がない。

同三について。

原審の確定する事実によれば、本件期限の利益は、弁済義務の負担者たる被上告人の利益のために定められたものと解されるから、これと同旨の原審の判断は正当であり、また、原審認定の事実関係のもとにおいては、被上告人のした期限の利益の放棄が売主側の権利を害するものとも解されない。それ故、原判決には所論のごとき違法はなく、論旨は理由がない。

同四について。

債務の履行が可分なものである本件においては、期限の利益の部分的放棄も許されるものと解するを相当とする。それ故、論旨は理由がない。

同五について。

所有権に関する仮登記は、順位保全の効力を有するものであつて、仮登記の原因とされた権利関係自体の公示を目的とするものではないから、仮登記によつて公示された権利関係と実体上の権利関係との間に若干の相異があつても、その仮登記の効力を否定すべきではないものというべきである。それ故、本件土地については、売買契約によつては未だ被上告人にその所有権が移転していない時機において、原判示のごとくそれぞれ被上告人のために売買を原因とする上告人らの各持分に対する所有権一部移転仮登記が付されているが、右仮登記は、それだけの理由でもつて当然無効であるとすることはできず、仮登記としての順位保全の効力を有するものと解するを相当とする。従つて、本件仮登記を有効とした原審の判断は、結局正当であり、論旨は理由がない。

同六について。

所論は、原判示にそわない事実および独自の見解を前提に原判決を論難するものであつて、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(奥野健一 草鹿浅之介 城戸芳彦 石田和外 色川幸太郎)

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